蒲郡の酒屋「まん天や」の日記ブログにお越しいただきありがとうございます。
木村です。
不定期連載ブログ「日本酒を脅かすもの」。今回は実に約9ヵ月ぶりの更新となってしまいました。
お酒を販売する立場として、私は日々、日本酒を勉強をしている(つもり)ですが、
その時に感じた「日本酒を取り巻く様々な脅威」をあらゆる側面から取り上げ、
その脅威をどのように克服してきてきたのかを、自分なりにまとめておきたいと思い、
こちらの連載ブログを書き始めたのですが…、
いつのまにか、「日本酒を取り巻く様々な脅威」について述べる部分が抜け落ちてしまい、
ただの日本酒の製造工程をまとめたブログになってしまいました(汗)。
私自身も日本酒造りに関しては研修程度に携わった事がある程度の経験しかなかったので、
日本酒の製造工程の段階では「この工程ではこういった脅威がある」という事を、
専門的に述べていく事自体に無理があったのかもしれませんが、
日本酒の事を知れば知るほど、ただただ「日本酒ってスゲーな!」と感心するばかりで、
「上から目線で評論家気取りする事なんておこがましい!」と思うようになりました。
同時に「当初のブログの本筋からどんどん外れていってしまっているのでは?」とウジウジ考え始め、
昨年2017年の6月に第14回の酵母について書いた後は、
連載ブログ「日本酒を脅かすもの」を更新する事が出来ずにずっと放置状態になっていたのですが、
最近になって「続きは書かないんですか?」というお問い合わせをいただきました。
こんな中途半端な状態で止まってる連載記事を、目にかけてくれている方がいるんだ、
という驚き、そして嬉しさも去ることながら、
このお問い合わせは、「自分の始めた事を、自分勝手な判断で途中で投げ出すな!」
「無様でも良いからあがいてみせろ!」という、私に対するありがたい叱咤激励の様に響きました。
そんなわけで、連載「日本酒を脅かすもの」を、この4月から少しずつですが、再開していきたいと思います。
「日本酒をとりまく脅威」について書いたブログとしては、褒められるようなものではないかもしれませんが、
「日本酒の勉強」という初心に立ち返り、自分なりの考察も織り交ぜながら書いていきますのでよろしくお願いいたします!
・・・前置きが長くなりましたが、今回は「日本酒を脅かすもの」第15回。「発酵」についてのお話しです。
1:発酵とは何ぞや?
基本に立ち返って考えてみますと、日本酒は「発酵食品」の一つ。
醤油、味噌、納豆、キムチ、ヨーグルト、チーズ等と同様に、お酒も「発酵」という現象を経て造られております。
という事で、日本酒造りの具体的な工程の前に、
まずは「発酵」そのものについてのお話をしておきたいと思います。
まず「発酵」とは、大きく「微生物の力で有機物質が他の何かに変換される事」と定義されております。
発酵に関わる①微生物、その微生物が食べる②有機物質、その結果③変換されるもの(食品)によって、
以下の表のように分類されます。
微生物 | 有機物質 | 変換されるもの | 代表的な発酵食品 |
酵母菌 | 糖分 | アルコールと炭酸ガス | パン・味噌・醤油・ビール・日本酒・焼酎・ワインなど |
乳酸菌 | 糖分 | 乳酸 | チーズ・ヨーグルト・キムチ・漬物・塩辛など |
酢酸菌 | アルコール | 酢酸 | もろみ酢・ワインビネガー・リンゴ酢・米酢など |
納豆菌 | 大豆 | ナットウキナーゼ | 納豆 |
これらのような発酵に関わる微生物は、総じて「発酵菌」と呼ばれます。
顕微鏡がある今でこそ、このように発酵菌の存在と働きが明らかになっているのですが、
発酵のメカニズムがまだ分かっていなかった昔から、手探りの実作業で培った経験によって、
存在すら分からなかった発酵菌を使って食品をつくっていたわけですから凄いですよね!
例えば人類最古のお酒は、今から約8000年前にメソポタミアでシュメール人が造っていたワインと言われてます。
それから月日は流れ、19世紀後半にフランスの科学者ルイ・パスツールによって、
酵母という微生物によってワインが出来る事が実証されました。
発酵のメカニズムが解明された事をきっかけに、酵母や発酵食品の多様化、品質の向上はもちろん、
ワクチンや抗生物質などの開発や、DNAの配置解読や生物情報学に貢献する等、
「発酵」は食品の世界にとどまらず、近代科学の礎として多方面に影響を与え続けているのです!
恐れ多いですが、まずは私なりに、
代表的な「発酵菌」の食品における基本的な働きについて、まとめていきたいと思います。
2:酵母菌による発酵
酵母菌による発酵は「アルコール発酵」。糖分をアルコールと炭酸ガスに変換します。
日本酒造りで使用される酵母は、前回(第14回 日本酒の個性を彩る酵母たち)のブログで紹介した通り、
現在では非常に数多くの種類があり、
ただアルコールを生み出すだけにとどまらず、日本酒の味わいを引き締める酸を産み出したり、
「吟醸香」に代表される香り成分を産み出す等、日本酒の香味を左右する重要な役目を担っておりますが、
上の表を見ていただくと、日本酒だけでなく、
他にも酵母菌によって造られる発酵食品は、パン、醤油のような食品や調味料もある事が分かります。
例えばパンづくりに使用されるイースト菌(パン酵母)は強い発酵力を持ちます。
温められると、パン生地に含まれる砂糖などの糖分を短時間でアルコールと炭酸ガスに分解します。
発生した炭酸ガスがパン生地を膨らませ、ふんわりとしたパンの食感を生み出すわけです。
それでは、パンの発酵時に炭酸ガスと一緒に発生したアルコール分はどうなるのでしょう?
「パンを食べても酔っぱらわない?」と少し心配になりますが、
調べるとアルコールはパンを加熱する段階で、ほとんど生地から蒸発して残らないとの事。
ただしイースト菌が働き過ぎて「過発酵」になったパンは焼き上がった後もアルコール臭が残ってしまうそうです。
醤油も同様、製造過程で小麦由来のブドウ糖をアルコール発酵させますので、
製品になった時点で(約1%程度ですが)アルコールが含まれています。
このわずかに含まれるアルコールが、醤油の保存性を高めたり、醤油の香ばしさを生み出す秘訣にもなっています。
(発酵によるアルコールが足らない場合は、アルコールを後から添加したりします)
このように酵母菌によるアルコール発酵は、お酒以外の食品、調味料に造りにも昔から利用されております。
3:乳酸菌による発酵
乳酸菌による発酵は「乳酸発酵」と呼ばれ、糖分を元に大量の乳酸を生み出します。
乳酸発酵によって造られる食品では、主にヨーグルトのような乳製品、キムチのような漬物が有名ですが、
どれも乳酸によるミルキーで豊かな酸味を感じる味わいが特長です。
有名な乳酸菌と言えば、「ビフィズス菌」です。
人や動物の腸内に生息する「腸内の善玉菌」と呼ばれ、腸内環境の正常化に有効と言われております。
今ではヨーグルト以外でも様々な食品メーカーが乳酸菌入り食品をつくっています。
また乳酸によって食品自体が酸性になるため、腐敗や食中毒の原因になる他の微生物の繁殖を抑え、
食品の長期保存を可能にする効果もあります。
この乳酸の効果を利用して、日本酒の酒母造りでも、
酒母を他の雑菌から守るためにタンク内を酸性にするのにも使用されております。
(詳しくは当連載ブログ第12回「酒母の造り方は二通り!生もと系と速醸系。」をご参照ください。)
またワイン造りの世界でも、酸の強い赤ワイン等に対して乳酸菌を投入し、
酸の元であるリンゴ酸を乳酸に分解して味わいをまろやかにを落ち着かせる「マロラクティック発酵」を行うなど、
お酒造りの工程の中でよく使用される発酵菌です。
お酒造りにおいては、アルコールを生成する酵母菌があくまで主役ですが、
乳酸菌は酵母菌が気持ちよく働けるためのサポートをしたり、
お酒の味わいを整えたりするための「縁の下の力持ち的な役割」も担っております。
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…発酵菌のお話しの途中でしたが、今回はここまでです。
(冒頭の私の前置きが長くなり申し訳ございませんm(__)m。)
次回の日本酒を脅かすもの第16回で、発酵に関する続きのお話をさせていただきます。