日本酒を脅かすもの⑦ ~「精米」お米の力を最大限に活かす技術~

蒲郡の酒屋「まん天や」の日記ブログにお越しいただきありがとうございます。

ボクシングの世界チャンピオンが、試合前日の計量で900gも体重超過して、
タイトルマッチの前に王座を剝奪されたというニュースがありました。
(4/23の中日新聞の記事です)

私は昔、ボクシング漫画が好きだったので、試合前のボクサーの減量が、
想像を絶する苦しみだという事を理解しているつもりですが、
体重を落としながらフルラウンド戦える体力を維持する事は、
非常に難しいみたいです。

私もマラソン大会が近づくと、以前は体重を出来るだけ減らそうとあがきました。
定説ではベスト体重から1kg太る毎に、ゴールタイムが3分遅くなるそうですが、
最近では太り過ぎて、ベスト体重に戻そうとあがくと逆に足を痛めてしまうので、
スピードよりも、42.195km走り切る体力維持を優先し、
腹回りについた余分なぜい肉を落とすくらいの調整しかしておりません。。

―ベストの状態にするために、余分なものを削り取っていく-

ボクサーの減量やマラソンの調整と結びつけるのは少々強引ですが、
お酒造りにおける「精米」は、まさにこのための作業です。
「日本酒を脅かすもの」第7回目の今回は、
日本酒造りにおけるはじめの一歩、「精米」についてのお話です。

1:酒造米の精米

当店にディスプレイしてある酒造好適米のサンプルです。

私達が食べる白米に比べると、かなり小さく精米されている事が分かります。
原料の玄米の外側部分には、ビタミンやタンパク質、脂質が多く含まれており、
これらはご飯を食べた時に美味しいと感じる「旨味」の要素となるのですが、
お酒造りにおいては酵母の働きを過剰に促進させてしまい、
美味しさを損なう「雑味」の要素となってしまいます。

そのため、食用米が表層のみ削られるのに対し、
酒造米は表層以下もかなり削られる事となります。
大吟醸酒であれば、実に半分以上も削られる事となります。

「日本酒を脅かすもの②」で触れましたが、
酒造好適米は栽培自体が非常に高度な技術と手間が必要です。
そうやって収穫されたお米を、更に手間と時間をかけて小さく削ります。
あらためて日本酒は、非常に贅沢な飲み物であることを感じます。

2:精米歩合について

よく日本酒のラベルに「精米歩合〇%」と書いてありますが、
この「精米歩合(せいまいぶあい)」とは、
玄米を削って、残った白米の部分の割合をパーセントで表したものです。
割合は下の式の通り、重量で計算されています。

例えば玄米時点の重量が100kgで、
精米された時点の重量が70kgの場合、
そのお米で造られたお酒の精米歩合は70%となります。

私達が日本酒を選ぶ時の大きな指標となる
「吟醸」や「大吟醸」などの日本酒の特定名称表記では、
この精米歩合の差によって名称が決められます。
精米歩合による呼称可能な名称は現在下表の通りとなります。

精米歩合 呼称可能な名称
純米酒系
(アルコール添加)
本醸造酒系
(アルコール添加)
規定なし 純米酒
70%以下 本醸造酒
60%以下 純米吟醸酒
特別純米酒
吟醸酒
特別本醸造酒
50%以下 純米大吟醸酒 大吟醸酒

*表中の「特別純米酒」「特別本醸造酒」の呼称は、
酒造好適米使用率が50%以上の場合は、61%以上の精米歩合でも可能。
*表中の特定名称酒の規定を外れたものは「普通酒」と呼ばれます。

3:日本酒の進化を支える精米機

現在では60%、50%の精米歩合の日本酒を当たり前のように目にしますが、
これほどの高精米が可能になったのは昭和初期になってからです。
それまでの米同士を摩擦させたり、水車を使ったりという精米技術では、
限界まで稼働させても精米歩合90%が精一杯でした。

昭和初期に「竪型精米機」が発明されてから、
70%以下の精米歩合が可能になり、前出の吟醸酒をはじめとした
特定名称酒登場の大きな原動力となりました。

吟醸酒の歴史はまだ100年に満たないんです。当店と同じくらいです(笑)。

その「竪型精米機」ですが、高さが5m以上もある非常に巨大なものです。
2年前に岡山県の醸造用精米機メーカー「新中野工業」様に
見学に行ったのですが、あまりの大きさに圧倒されました。

で、でかい・・・。この上部から玄米を投入します。

 

新中野工業独自のダイヤモンドロール。この砥石が回転して投入された米を磨いていきます。

精米されたお米が下部から出てきます。

4:割らないように大切にゆっくりと磨く技術

このようにきれいに精米される酒造米ですが、
その一方で削られた際に出る副産物として「米ぬか」があります。
精米歩合90%までに出てくるぬかを「赤ぬか」と呼び、
肥料やぬか漬等に使用されます。
精米歩合75%以下で出てくるぬかは「白ぬか」と呼び、
和菓子の材料等に使用されます。

しかし精米時にどうしても出てきてしまう「砕米(割れた米)」は、
再利用の用途も少なくロスになってしまうため、
「いかに砕米を少なくするか」が精米時の命題となっております。

特に50%以下のような高精米をする場合は、
精米すればするほどお米は小さく、砕けやすくなるため、
砥石の回転スピードを落としたり、お米が砥石を通る量を調整して、
ゆっくり精米する必要があります。

そのため精米歩合に比例して時間もかかるようになり、
70%なら12時間ですが、その半分の35%まで磨くとなると、
実に約9倍、100時間以上もの時間を要します。

最近は回転数やお米の量をオートメーションで調整出来る精米機もあり、
これらを導入する事で自社精米も人件費を減らす事も可能になりましたが、
費用面で機械の新規導入が難しい酒蔵は、
精米業者に精米を委託する「委託精米」で対応しております。

自社精米であれ委託精米であれ、
砕米等のロスを出さず、酒造米の特性に合った精米をするために、
精米機の技術革新も現在進行形で行われております。

原料である酒造米の特長を最大限に活かすのに、
この「精米」が酒造りのはじめの一歩として非常に重要なため、
蔵元が特に力を掛ける工程の一つです。

蔵元の努力と、精米技術の進化が相まったこの時代だからこそ、
数々の高品質な日本酒に出会う事が出来る!
とても幸せな事に感じます。

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最後までお読みいただきありがとうございました。
次回はお米の精米以降の工程についてのお話です。

 

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