毎度「まん天や」の日記ブログにお越しいただき、ありがとうございます。
木村です。
私が学生時代に一人暮らしをはじめた頃、
慣れないながらも自炊を思い立ち、炊飯器でお米を炊くのですが、
初めの頃は注意不足で水加減をよく間違えました。
米三合に対して四合分のお水をいれてしまったり…、
炊き上がった白飯は当然べちゃっとなってしまい、
せっかくのお米を台無しにしてしまう事も多々ありました。
その後は徐々に慣れてきてケアレスミスは減りましたが、
今度はお米の銘柄や状態によっても水加減が左右される事を知りました。
例えば、普通に炊いたつもりが何故か水っぽくなってしまい、
確認したら、そのお米は新米で、
通常よりも1割ほど水加減を減らす必要がある等…、奥が深い世界です。
最近では、炊飯器に入れたお米の銘柄や分量に合わせて、
自動的にベストな水加減を算出してくれる、便利な炊飯器があるそうです。
*アイリスオーヤマ 米と水の最適な量を計測できる炊飯器 価格.comの記事
メーカーのアイリスオーヤマさんによると、
炊飯の際、基準となる水の量に約4.5%を越える過不足がある場合、
ご飯のおいしさが損なわれてしまうらしいです。
しかしお釜の内側にある水位線だけをたよりに給水すると、
水加減をこの誤差以内に抑える事が非常に難しい事が調査で判明、
そこで銘柄や分量によって最適な水の量を算出する機能を開発し、
炊飯器に搭載したそうですが、これが大ヒット!
同社の家電事業の年間売上を参入当初から4倍以上に押し上げたそうです。
水加減に悩む人が、私の他にも大勢いた!…というよりも、
多くの人が水加減がご飯の食味を左右する重要な要素だと
認識しているという事だと思います。
お酒造りにとっての水加減も、出来栄えを左右する重要な要素です。
本日は「日本酒を脅かすもの」第8回目。
精米されたお米が洗米される工程のお話です。
1:まずは「枯らし」。米を安定させる大事な工程
精米されたばかりのお米は、摩擦によってかなりの熱を帯びています。
また摩擦熱によってお米の中の水分も蒸発してしまい、
お米の中の水分分布が不安定になっているの状態です。
実はこの状態のままお米を水につけて洗米すると、
水分を吸い過ぎてしまい、急激な温度変化でお米が割れてしまったり、
吸水にムラが出るなど、せっかくのお米が台無しになってしまいます。
よって洗米をする前に、お米の品温を下げる事と、
お米の内部の水分を均一化する事を目的に、
2週間から3週間の間、精米したお米を麻袋やタンクに入れて、
冷暗所で保管しながら落ち着かせます。これを「枯らし」と言います。
少々乱暴なのを承知で「洗米」を「洗顔」に例えてみましょう。
外でこんがり日焼けしたばかりの顔を洗顔料でこすりながら洗うと、
炎症を起こした皮膚に更に刺激を与えてしまい肌トラブルを招きます。
日焼けした後にまずやるべき事は、すぐに濡れタオル等で冷やすこと。
その後軟膏などで消炎・保湿をすることが効果的です。
精米したばかりのお米も、まさに同じ事が言えると思います。
洗米する前に「枯らし」でお米を落ち着かせる事は、
その後の工程でお米の品質を損なわないための大切なクールダウンです。
2:洗米・浸漬・水切りで最高のコンディションに
「枯らし」の後は「洗米」です。
水を使い白米の表面に残っている糠や米くずを洗い流します。
機械による洗米もありますが、
洗米時に米は1%程度摩耗すると共に、水分も吸収するため、
吸水率が品質に大きく影響するといわれる吟醸酒造りの際は、
たらいに冷たい水を入れてお米を傷つけない様、
細心の注意が払われながら手作業で洗います。
今度は「洗米」を「洗車」に例えますが、
愛車を洗車機に入れるより手洗いした方が、傷つける危険は減りますもんね。
その後、間髪を入れずに「浸漬」の工程に入ります。
洗米を終えた白米を直ちに浸漬タンクに移し、
必要な水分をお米に浸透、吸収させます。
麹菌の繁殖に最適なコンディションの蒸米が出来るようにするためです。
杜氏さんによってはこの浸漬でお酒の品質が決まるともいわれている
非常に重要な工程です。特に大吟醸用の米を浸漬する場合は、
給水を遅くするため通常(10~15℃)よりも冷たい水を使い、
ストップウォッチを片手に秒単位で時間を計測しながら行います。
所定の時間が来たらお米の入ったざるを持ち上げるのですが、
水を含んだお米は重くなっており、力も必要です。
また、その日の天候、気温、湿度も吸水の時間に影響するため、
熟練の杜氏さんが吸水率を入念に確認しながら行います。
水分量が多過ぎたら良い蒸米も出来ず、後工程に悪影響が出てしまうし、
逆に水分量が少な過ぎたら蒸米に米の芯が残ってしまい、
この状態でも麹が繁殖しにくくなってしまいます。
失敗したらやり直しのきかない、非常に神経を使う仕事です。
「洗顔」の後も肌の水分がどんどん蒸発してしまうので、
保湿も3分以内に行う鉄則があるそうです。
お肌の保湿も米の浸漬も、時間が勝負なのが分かりますね。
そして「水切り」によって、酒米のコンディショニングは完了です。
水切りは浸漬したお米の水気を切る作業ですが、
浸漬した時間、洗米した時刻、次工程の「蒸し」に要する時間、
お米の種類や酒質によって切る水の量や作業時間が変わってきます。
方法としては、布袋に入れて振って水を切る、平ザルで放置という手作業から、
吸引機や遠心分離機等の機械を使うやり方まであり、酒蔵によって様々です。
ラーメン屋の「湯切り」も茹でた麺の余分な水分を切るための工程ですが、
お店によって「天空落とし」や「ジャンピング湯切り」等の技があります。
これは余分な茹で汁の成分でスープの味を損なわないようにするために
各店で工夫された湯切りの方法で、こういった面からも酒蔵の水切り同様、
水加減に対するシビアな考え方がラーメン屋でもうかがえます。
編集後記:教科書に載ってない「最適な」水加減
前述したアイリスオーヤマさんの炊飯器が完成に至るまで、
分量だけでなく、お米の銘柄に至るまでの最適な水加減を算出するために、
色々なお米の品種に対して数えきれない程の実験、試食を重ねたそうです。
日本酒造りにおけるお米の水加減も同様に、
米の品種だけでなく、お米の精米歩合や目指す酒質、蔵元の個性や気候など、
食用米以上に考慮すべきポイントがあり、
それぞれの蔵元が試行錯誤を繰り返してやっと最適な水加減を見出します。
もちろん教科書通りにはいかない部分で難しい工程ですが、それ以前に
「こんなお酒を造る」という明確な目標や具体的イメージがないと、
最適な水加減に行きつくための「道しるべ」も浮かんでこないと思いました。
目的・ゴールが出来て、はじめて突き詰める事が出来る工程と感じました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は洗米されたお米を「蒸す」工程についてのお話です。