蒲郡の酒屋「まん天や」の日記ブログにお越しいただきありがとうございます。
木村です。
本日6/11(日)は朝から穏やかな日が差し込む良いお天気!そんなに暑くなく風が涼しいです。
梅雨の中休みなのか、蒲郡はここ数日はカラッとした晴天が続くようです。
「乾燥注意報」まで出ているくらい、カラッとしてます。
当店で、梅雨の時期に欠かせないのが「湿気対策」です。
冷蔵庫の外の気温や湿度が上がってきて、その外気がオープン冷蔵庫内に入ってくると結露の原因となります。
結露が発生してしまうと、水滴が商品のラベルを汚してしまう危険が出てきてしまいます。
という事で、湿気による結露を防ぐため定期的にエアコンをドライ運転させたり、除湿器を置いたり、
必要の無い時は冷蔵庫にビニールカーテンをして外気が入ってこないようにするなど、地道に対策しております。
なのでお店的には、こういう湿度の低い日が続くと、湿気の危険も無く安気に過ごせるので助かりますが、
蒲郡の水源でもある宇連ダムが渇水してしまうのも嫌ですので悩ましいですね。。
今回のブログは「日本酒を脅かすもの」第13回。
前回は酒母の造り方は、「生もと系酒母」と「速醸系酒母」の二通りある事をお話ししましたが、
その中の一つ「生もと系酒母」を、さらに詳しく掘り下げていきます。
1:「生もと」&「山廃もと」 ~新旧2つの「生もと系酒母」の造り方~
「生もと系酒母」。これは酒蔵内に生息する乳酸菌を取り込み、繁殖させて乳酸を得る方法で造る酒母で、
醸造用乳酸を加えて造る「速醸系酒母」と比べると、濃厚でふくらみ、奥行きのあるお酒になる代わりに
時間と労力がかかる事を前回お話させていただきましたが、
実はこの「生もと系酒母」も、作業工程の違いによって2つに分けられます。
昔ながらの伝統的な手法である「生もと」と、
近年になって開発された新しい手法「山廃もと」の2つです。
どちらも自然界の乳酸菌を育成する手法は同じなのですが、その中の「お米を溶かす作業工程」が違います。
(1)生もと
「生もと」は、明治時代までの酒母造りで行われていた手法です。
昔は精米技術が発達しておらず、お米も現在に比べるとかなり大きな状態でした。
(せいぜい精米歩合90%が限界だったと言われております)
お米が大きな状態のまま酒母を造ろうとすると、蒸米が糖化して溶けるのに時間がかかります。
そのため、蒸米を櫂(かい)と呼ばれる棒で摺り潰し、糖化を早めるための作業を行っていました。
この作業を「山卸し(もと摺り)」と言い、この作業で造られた日本酒を「生もと」、または「生もと造り」と呼びます。
また「山卸し」の作業は、お米を糖化させやすくするだけではなく、
お米を摺り潰す事で微生物に対する環境が変化するため、お酒に特有の香味が生み出されるのも、
「生もと造り」の特徴の一つです!
しかしこの「山卸し」は、蔵人が大勢で行う非常に重労働な作業でもあります。
作業のテンポ合わせと時間計測のために、
「もと摺り唄」を蔵人みんなで歌いながら行いますが、
疲れによる眠気覚ましと、活気づけの目的もあったみたいです。
(少し古いですがNHKの朝ドラ「マッサン」でも、劇中に「もと摺り唄」が出てきました。)
(2)山廃もと
「山卸し(もと摺り)」の作業が非常に重労働だったので、これを解消するため様々な研究が行われてきました。
明治以降、精米技術も進歩し機械化され、よりお米を小さく削れるようになると、
麹の糖化酵素がお米に吸収されやすくなり、
「山卸しなんてしなくても、お米は麹だけで溶けるのでは?」という仮説が生まれました。
そして1909(明治42)年に国立醸造試験所より
山卸しを行った酒母と、行わなかった酒母で、成分的な違いが見られなかった実験結果が発表されました。
これにより山卸しの作業を廃止するという認識が広まり、これを略して、
「山廃」と命名されるようになりました。「山廃もと」で造ったお酒は「山廃仕込み」と呼ばれます。
この「山廃」が誕生した際に、蔵人の間で「櫂でつぶすな麹で溶かせ」という言葉が、
酒母造りの心得として流行したそうです。
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…以上が2つの生もと系酒母でした。
酒母についての今までのお話をおさらいしますと、
以下の図のようになります。
元々、「生もと」と言えば、
「自然界の乳酸菌を取り込み、山卸しを行う酒母造りの手法」の一通りの意味しかなかったのですが、
「山廃もと」の手法が開発されてからは、「生もと」と言うだけでは、
「乳酸を得る方法の事」なのか、「山卸し作業の有無の事」なのか、分かりづらくなりました。
「生もと」と「山廃もと」の違いが、日本酒造りを勉強する中で一番ややこしい部分、と言われております。。
2:「生もと造り」はお酒造りの原点。
「生もと系酒母」である「生もと」と「山廃もと」は、どちらも自然界の乳酸菌を育成する方法です。
「速醸系酒母」に比べ、どちらも濃醇な酒質に仕上がるのは同じ。
成分的にも蒸米を潰しても、潰さなくても変わらないという実験結果が出ているため、
重労働である「生もと」は敬遠されるようになり、
現在では「生もと造り」という商品は全体の1%しか存在しません。
しかし、敢えてお米を摺り潰す事で、微生物に対する環境を変化させ、
{山廃もと」とは違う、個性豊かな香味を生み出すことを目的に、
敢えて重労働である「生もと造り」に取り組む蔵元も少なくありません。
(兵庫県の「菊正宗」や、福島県の「大七酒造」など)
昔に比べて現在のお酒造りの技術は格段に向上しておりますが、
試行錯誤を重ねた末、やはり伝統的な「生もと造り」が、
「自分たちのお酒の個性を出すために不可欠である」と考え、
現在の蔵人が原点に回帰する事を考えると、
あらためて、顕微鏡も分析機も無い昔の蔵人が確立した酒造りに対して、
神秘的な奥の深さを思い知らされます。
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…最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は酒母によって培養される酵母について、具体的に掘り下げていきます。
“日本酒を脅かすもの⑬ お酒造りの原点。重労働でも何故「生もと造り」に挑戦するのか。” への 1 件のフィードバック
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