日本酒を脅かすもの⑨ ~「蒸し米」日本酒造り前半戦の山場~

蒲郡の酒屋「まん天や」の日記ブログにお越しいただきありがとうございます。
木村です。

ゴールデンウィークの連休真っ盛り。皆様いかがお過ごしでしょうか?
ここ蒲郡ではツツジが見頃を迎えております。

ツツジは蒲郡の「市の花」に選ばれており、
沿道にたくさん植えられている満開のツツジが、
赤・白・ピンクと鮮やかに蒲郡の春を彩ります。

竹島にある「蒲郡クラシックホテル」では5月5日(金)まで、
「つつじまつり」が開催されております。
お天気も良いみたいですので、ゴールデンウィークのお休みは、
三河湾をバックに咲き誇る約3,000本のツツジを眺めて過ごすのも良いですね。

さて、今回のブログは「日本酒を脅かすもの」第9回。
洗米されたお米が蒸される工程についてのお話です。

1:「蒸し」はムシ出来ない!日本酒造りの重要な工程

・・・と、のっけからスベってますが、
日本酒造りでの「蒸し」は、品質の良し悪しを決定する重要な仕事なのです。
日本酒では、米は「炊く」のではなく、「蒸す」事で効果を発揮します。

「蒸し」は、前工程の水切りまでを終えて適度に水を吸ったお米を、
蒸気で加熱する事でデンプン質をアルファ化(糊化。粘りが出る)させます。
これにより麹菌が繁殖しやすくなり、
麹菌の生産する糖化酵素の作用を受けやすくなります。
また蒸す事で、お米の殺菌をする効果もあります。

食用米のように「炊く」事でもでんぷん質のアルファ化はされるのですが、
その場合は日本酒造りでは必要以上の水分を吸い過ぎてしまい、
出来上がった蒸し米は外側が柔らかくなり過ぎて、腐敗の恐れが出てきます。
米の状態は、さばけが良く、外側が硬く内側が柔らかいものが理想で、
(外側が柔らかいと腐敗しやすく、内側が硬いと麴菌糸の成長を妨げる)
蒸し米にする事で、この理想の状態を実現します。

蒸し米の良し悪しが、次工程の麹造りの管理や、
もろみの中での米の溶解時間に大きな影響を与えるので、
ここでは細心の注意が払われます。

2:蒸しの方法

蒸しの方法は、一度にどれだけのお米を蒸すか、量によって変わります。

普通酒などに使うお米の場合では「自動連続蒸米機」という機械を使って、
一度に大量のお米を蒸していきます。
ベルトコンベアに乗ったお米が、蒸気層の中を通りながら蒸される横型式と、
円筒の上部から連続的にお米を入れ下部から蒸気を吹き込んで蒸す竪型式の、
2種類あります。

私も以前の蔵研修で横型式の自動蒸米機を見た事がありますが、
30畳近くの部屋がいっぱいになるくらいの大きな設備でした。

それに対して、大吟醸などの高級酒の場合は、甑(こしき)を使い、
蒸篭(せいろ)と同様の仕組みで少量ずつ蒸していきます。
「甑」は昔ながらの杉材で作られた深い桶で、底には「甑穴」があり、
下から熱せられた水が蒸気となって勢いよく噴き出す仕組みになってます。

この方法で蒸す時間はおよそ40分が平均的ですが、
中には60分も時間をかけて蒸す場合もあります。
途中で杜氏さんが、蒸し米をこねて「ひねり餅」と呼ばれる餅をつくり、
手触りで蒸し米の状態を確かめます。(これが相当熱いらしいです・・)

蒸し上がりの判断は、このひねり餅が硬すぎないか柔らかすぎないか、
弾力、手触り、香り、透明度を含めチェック(検蒸(けんじょう))し、
最適な状態になった時に杜氏さんが判断を下します。
お米の状態やその日の気候によって蒸しの状況に差が出てくるため、
今も昔と変わらず、人の手の感覚が必要な仕事となっております。

あと余談ですが、「ひねり餅」は昔は杜氏さんが焼いて食べてたらしいです。
もち米ではなく、うるち米なので、歯ごたえがあって美味しいようで、
もし機会があれば食べてみたいですね。

3:蒸し米は「麹米」と「掛米」に

こうして蒸し上がったお米は、麹(こうじ)造りに使われる「麹米」と、
醪(もろみ)造りに使われる「掛米(かけまい)」に分けられ、
それぞれが使用目的に応じた温度まで冷まされます(放冷と呼びます)。

蒸し米をむしろの上に広げて外気で自然冷却する昔ながらの方法や、
ベルトコンベアの上を移動しながらファンで冷やしていく方法もありますが、
その放冷の場所まで蒸し米を運搬するのが非常に重労働で、
放冷作業は蔵人総出で行う蔵元さんも少なくありません。

ここまでで、酒造り前半の山場「蒸し」の工程が終了します。
なお、お酒の仕込みのシーズンが終了する事を、
昔から「甑倒し(こしきだおし)」と呼ばれております。
「蒸し」のあとも「麹造り」をはじめ、お酒の仕込みは続いていきますが、
仕込みが終了すると米を蒸すの甑が不要になり横に倒して洗う事から、
蔵人さんからこのように呼ばれはじめたそうです。

この言葉を聞くと、あらためて「蒸し」がお酒の仕込みの工程の中でも
重要な部分だという事を、蔵人さんが実感していたんだと思い知らされます。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は酒造りの中盤戦のスタート、「麹造り」のお話です。