日本酒を脅かすもの⑥ ~お酒の個性を彩る様々な名水~

蒲郡の酒屋「まん天や」の日記ブログにお越しいただきありがとうございます。
木村です。

日本酒の試飲会やイベントに参加すると、
出品している蔵元さんの酒造りに使用している「仕込み水」が、
ペットボトルに詰められて、会場のテーブルに並んでいる事があります。

試飲とは言え、色々な種類のお酒を飲み続ける訳ですので、
当然体に負担がかかるし、頭も酔っぱらってきます。
最悪の場合は悪酔いして、会場のトイレで2時間こもりっきり…。
トイレから出てきた後、思うのは「お酒はもうこりごり…」という後悔。
何のための試飲会かわからなくなります。(ちなみに10年前の私の実話です)

そんな時、蔵元さんの「仕込み水」が飲めると嬉しいですね。
「和らぎ水(やわらぎみず)」として、お酒を飲む合間に水分補給すると、
体内のアルコールを中和してくれますので、悪酔いを防いでくれます。
悪酔いに懲りた私は、それ以来お酒の量以上の水を飲むようにしてます。

そして「仕込み水」の味わいも、飲んでみるとそれぞれ違う事に驚きます。
「トロッ」だったり「スッ」だったり「キリッ」だったり、、
どれも美味しいのですが、蔵元によって特徴が大分違う事を実感できます。

今回のブログは「日本酒を脅かすもの」第6回。
日本酒に使われるお水の性質を具体的に掘り下げていきます。

1:名水あるところに銘酒あり。日本の代表的な水源

「日本酒生産量ベスト3」は、
兵庫、京都、新潟がずっとベスト3の座を守り続けていますが、
これらの地域に共通しているのは、
日本酒造りに適した水源に恵まれているという事です。

代表的な都道府県の水源を紹介させていただきます。
(以下はSSI利き酒師講習テキスト「日本酒の基」からの出典です)

代表的な水源
兵庫宮水(兵庫県西宮市の海岸近くの地下から汲み上げられる地下水)
京都伏見の御香水
新潟信濃川、阿賀野川、福島潟、角田山霊水など
岩手金沢清水、龍泉洞地底湖、馬渕川など
静岡天竜川、太田川、大井川、狩野川、富士山南アルプスの伏流水など

このような良質の水源近くには、昔から蔵元が多く存在します。

最良の酒が造られる必要な要素は、主に以下の4つです。

1・良質な原料を得ること
2・優秀な杜氏や、仕込みの時期に人員の確保ができること
3・日本酒造りに適した気候であること
4・良質で大量の水を確保できること

昔から銘醸地とされるところは、これらの条件を全て兼ね備えていたから
美味しい日本酒を造る事が出来ました。

現在、1~3の条件に関しては流通システムの発達や機械化等により、
原料の調達、人材や技術の確保、一年を通しての醸造が可能となりました。
しかし、4の水だけは遠くから運ぶ事は不可能です。
タンクローリーで運ぶ手段もありますが大変なコストがかかります。
つまり水の確保だけは現在でも自然から取水する方法が最良であるため、
日本酒の蔵元の多くは、良質な水源近くに今も存在し続けています。

2:水の硬度がお酒の味わいを左右する

市販のミネラルウォーターのラベルに「硬度○○dh」等の表示があります。
硬度とは水に含まれるカルシウム、マグネシウムの割合を表す指標です。
例えば100mlの水にカルシウム、マグネシウムが1mg含まれている時、
ドイツ硬度で「1dh」となります。(アメリカ硬度換算だと17.8ppm)

この硬度によってお酒はもちろん、仕込み水自体の味わいも違ってきます。
先程書いた「トロッ」だったり「スッ」だったり「キリッ」だったりは、
この硬度の違いによるところが大きいです。
以下に水の硬度についての目安表を掲載します。
(こちらもSSI利き酒師講習テキスト「日本酒の基」からの出典です)

この表を見ると日本酒用の水は、ほとんどが軟水に属しているようです。
一般的に軟水で仕込んだお酒は優しくきれいな味わいになるといわれ、
硬水で仕込むと酸が強めでキリッとした辛口の味わいになるといわれます。

京都伏見の水(硬度4dh)で仕込んだ京都の酒は、
優しく甘口の味わいから「女酒」と称され、
灘の宮水で仕込んだ酒は、力強い味わいから「男酒」と称されています。

その他の地域のお酒で、
水に特色のあるものを少し紹介させていただきます。


「静岡県 花の舞 純米吟醸生原酒」
天然の超軟水、南アルプスの伏流水を使用。
トロリとした舌ざわりで非常に優しい口当りです。

 


「奈良県 油長酒造 風の森 ALPHA type3」
金剛葛城山系深層地下水を使用。超硬水のため非常に硬質なボリューム感があり、
ほのかに炭酸ガスを含んだフレッシュな味わいと相まって舌に心地良いです。

このようにお酒造りのお水は、原料のお米と同様に
蔵元の酒の特色を方向付ける重要な役割を担っております。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今までは原料のお話でしたが、
次回からいよいよ酒造りのお話に入ります。