日本酒を脅かすもの④ ~地元愛知県の酒造好適米~

蒲郡の酒屋「まん天や」の日記ブログにお越しいただきありがとうございます。
木村です。

突然ですが、皆様は「酒処(さかどころ)」と聞いて、
日本のどの地域を思い浮かべますでしょうか?

私は大学時代に住んでいた「京都の伏見」が真っ先に思い浮かびます。
下宿が伏見稲荷神社の近くでしたので、そこから少し南に下れば、
酒蔵がたくさん軒を連ねていたのですが、
当時の私は若さ故、酒蔵よりもラーメン屋巡りばかりしていました。。
今になって「勿体無かったな」と後悔しております。

日本の主な酒処として、兵庫県、京都府、新潟県が有名です。
いずれも有名な酒蔵がたくさんあり、
日本酒生産量の多い都道府県では、兵庫が1位、京都が2位、新潟が3位と、
毎年このベスト3は固定されています。

しかし、ここ愛知県も負けじと、
日本酒生産量の上位5~6位に毎年ランクインされているのです。
近年は日本酒の原料となる酒造好適米の栽培や品種改良も
県内で積極的に行われており、愛知も酒処として認知されつつあります。

そこで本日のブログ「日本酒を脅かすもの」第4回目は、
地元愛知県の酒造好適米について具体的に紹介させていただきます。
前回代表的な酒造好適米を紹介しましたが、それに負けてませんよ!

1・若水(わかみず)

愛知県で生まれた記念すべき酒造好適米 第一号です。
「愛知のお米で愛知のお酒をつくり、
まずは地元の人にご愛飲してもらおう」というコンセプトのもと、
愛知県安城市の農業試験場で開発され1983年に奨励品種登録されました。

穂高が低く強風で倒伏しづらいため、平地でも栽培が可能で、
愛知では主に安城で栽培されております。
「若水」の名前の由来は、元旦の早朝に汲む神水の意味です。
造られたお酒は、お米の旨味が良く出た旨口のお酒が多いです。

安城市の神杉酒造「特別純米無濾過生原酒 若水60%」フレッシュな米の旨味!

お米の性質としては、山田錦等の酒造好適米に比べると、
少し小粒で心白が大きいため、50%以下の高精米をすると
精米途中に割れやすく、大吟醸酒には使いづらいという面があります。
縞葉枯病にもなりやすく、近年は他の品種に押され作付面積が減少し、
現在苦戦を強いられている品種です。

しかし愛知県農林水産部が主導している
いいともあいち運動(eat more aichi イートモアアイチ)」に代表される
愛知県産品の地産地消を推進する取組にもバックアップを受けて、
地元の農家と酒蔵が一体となり、生産量アップに取り組んでおります。

神杉の無濾過生原酒の瓶の裏にマークが貼ってあります。

2・夢山水(ゆめさんすい)

酒米の王様「山田錦」を父に持つ、交配育成された品種で、
2001年に愛知県で奨励品種登録された比較的新しい品種です。

山田錦と同様、平地での栽培に不向きで、
標高500~650mが最も栽培に適しており、
愛知の奥三河などの山間部で栽培されております。
「夢山水」の名前は、良質な酒米生産を通じて、
愛知県山間部の活性化に寄与出来る事を祈って命名されました。

お米の特長としては、父の山田錦と同様に大粒ですが、
稲穂も高くなるため強風には弱いという側面もあります。
心白の大きさは中くらいで、前述の「若水」より高精米に耐え得るので、
大吟醸酒造りにも適しております。

設楽町の関谷醸造「一念不動 純米大吟醸夢山水45%」飲み口のキレ、フルーティな味わい、後味の爽快感!

他の酒米よりもたんぱく質含有量が少なく、精米後の脂肪類も少ないため、
醸した酒は、とても綺麗で雑味が無く、香りの良いお酒になります。
このお米の味わいの特長を生かした純米大吟醸造りが、
愛知の酒蔵でも良く取り組まれております。

3・夢吟香(ゆめぎんが)

前述の酒造好適米「若水」は、高精米が難しいため
吟醸酒造りには向かないという面がありました。
山田錦を父に持つ「夢山水」は、吟醸酒造りに適してますが、
山田錦と同様、山間部での栽培に限定されます。

「何とか平地で栽培出来て、吟醸酒用の酒米が出来ないか?」
そこで「若水」と「山田錦」を交配する事で、
「山田錦」に近い高精米適性を持ち、
平地でも安定して栽培出来る品種が誕生。それが「夢吟香」です。
2012年に品種登録されたばかりの新しい品種です。

お米の特長は「若水」に比べ大粒で心白も小さいため、
高精米が可能、山田錦と同等の酒造適正を持ちます。
稲の穂高は山田錦よりも15cm程短く、強風にも倒伏しづらく、
更に縞葉枯病に対して抵抗性を持っております。

淡麗ながらも芯の通った味わいで、
豊かな吟醸香をたたえたお酒が造られます。

豊橋市の伊勢屋商店「周太郎 純米吟醸 夢吟香50%」白ワインのような爽やかな酸の後に特有のふくよかな香味が広がる

まだまだ新しい品種ですが、平地での栽培が可能という事で、
既に安城、知多、豊橋などの平野部で栽培が進み、
県内の各蔵も、この品種を吟醸酒を多く造っており、評価を得ています。
今後の作付けの展開によっては、生産量、酒質共に向上するかもしれない、
まだまだ可能性を秘めた品種です。

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以上、3つの愛知県の酒造好適米を紹介させていただきました。

編集後記:「酒処 愛知」と呼ばれる日まで

冒頭で紹介させていただいた通り、
愛知県の日本酒生産量は、毎年上位ランクに入る程多いのですが、
愛知県での成人一人当たりの年間日本酒消費量は少ない方で、
全都道府県の中で毎年40位近くにランクされております。

「愛知県民は健康志向なのか?」「下戸が多いのか?」とも取れますが、
「愛知で造られたお酒が、愛知の人々に飲んでもらっていない」
この現象はこのような状況が見え隠れしているように思えます。

私達酒販店は、もっと愛知の地酒を地域の皆様に知ってもらい、
少しずつ愛知の酒の地元ファンを増やしていく事が必要だと、
今回のブログを書いていて感じました。

ケンミンショーみたいに、
愛知の人が愛知の酒を他県の人に自慢する、そんな日が来れば、
晴れて愛知県は正真正銘の「酒処」として認知されると思います。